記載型と仮説駆動型の研究

 現代生物学では仮説駆動(Hypothesis driven)型研究が高く評価されます。これには、そもそも現代生物学の祖であるメンデルの研究がまさにそれであったことも関係しているでしょう。しかし複雑多様な生物を対象にして仮説駆動型研究を成功させるのは、かなり確率の低い博打仕事です。

 では巷間の研究者はどうやって仮説駆動型研究で成果を上げているのでしょうか。それには二つの「良い」方法があります。一つは確実に成立する仮説を立てること、二つ目は仮説に合うようにデータを採る、時には造ることです。その結果として出来上がっているのが、今の生命科学研究者ソサエティーの現状です。再現性のない論文やそもそも図がおかしな論文など枚挙にいとまがありません。しかし仮説駆動型研究に罪があるわけではありません。はっきり言うとその原因は研究者の志の低さです。

 一方、今では流行りませんが、記載型研究というのもあります。ひたすら観察・分析と網羅的記述を続ける研究です。多大な労力とマニアックな性格を必要とする割に評価が高くないので、避けられる傾向にあります。しかし記載型研究は学問分野のパラダイムシフトを起こすために不可欠なものです。それは記載型研究によって、アノマリーの蓄積が起こるためです。アノマリーとは規範(パラダイム)からの逸脱現象のことで、その蓄積によってパラダイムシフトへの機運が高まります。そして多くのアノマリーを説明できる新たな仮説が提唱されると、そこで仮説駆動型の研究が必要になります。

 記載型研究と仮説駆動型研究、両者を上手く組み合わすことによって、誰も知らない誰も見たことのないものを発見できる可能性が増えるのです。私たちの研究で言えば、「糖鎖アトラス」は典型的な記載型研究です。ゼブラフィッシュの胚発生における糖鎖の研究については、今回報告した内容までは記載的な色合いの濃いものです。今後は得られた知見を基に仮説を立てて証明する研究にシフトしていきます。

2017年02月08日