新潟大学 大学院自然科学研究科 数理物質科学専攻
理学部 物理学科 電子物性研究室 (根本・赤津研究室)

Top Publication Member Apparatus

Nemoto Lab

Research


Silicon

半導体のシリコンは、最も純粋で完全性の高い結晶を作ることができます。しかし、融点の約1412℃で育成するため、結晶にはシリコン原子が1個抜けた原子空孔や、原子が余分に入った格子間シリコンとよばれる点欠陥が必ず存在することが知られています。現代の最先端デバイスの製造現場では微細化が極度に進行し、微小な欠陥制御がますます重要視されています。その中で、様々な欠陥の生成を支配する原子空孔を計測する技術開発が急務であり、新潟大学での基礎研究の成果をもとにした超音波によるシリコンウェーハの原子空孔評価・制御の基盤技術の構築が産業界から強く求められています。私達は、原子空孔の周りにつくられる電子軌道が電気四極子をもつことに着目し、弾性定数の精密測定により、極低温でシリコンの硬さが減少する低温ソフト化を世界で初めて見出しました。この弾性定数の減少量は、磁場を印加すると徐々に小さくなり、約4Tの磁場中ではソフト化がほぼ消えてしまいます。磁石にくっつかないシリコンにおいて、硬さを表す弾性定数が磁場依存性を示すのです。これは、いま観測している量子状態が電子系であることを認識させるものです。原子空孔の直接観測は、これまでいくつかの試みがあるものの成功していなかったため、量子力学の問題として深化できずにいました。長年にわたる研究の結果、原子空孔の量子状態が次第に明らかになり、その定量評価が可能となってきました。そして物性物理や低温物理の基礎研究の成果が、産業応用にも役立つ可能性を秘めた希少な例として認識されつつあります。今後はシリコンウェーハメーカーやデバイスメーカーとの緊密な協働により、実用化する際の課題や新しい物理の概念の構築などをめぐり、基礎研究と応用研究を同時に展開していきます。

Superconductor

超伝導とは、たとえば固体⇔液体⇔気体のように、物質の性質が劇的に変化する相転移の一種です。この相転移現象は、低温で物体の電気抵抗がゼロとなる完全導電性と、物質中から磁場が完全に排除されるマイスナー効果によって特徴付けられます。このような性質をもつ超伝導体は、医療機器のMRIや新しい交通手段であるリニアモーターカーなどになくてはならない物質です。また、環境問題が議論される中、電力をロスなく送電できる超伝導体は夢の素材であり、室温で超伝導を示す物質を探索し開発することが求められています。そのためには、超伝導の発生メカニズムについて理解する基礎研究が何より大事です。次世代の高温超伝導体として世界的に注目されている物質に、2008年に日本で発見された鉄系超伝導体があります。その中で私たちは、23K(-250℃)の超伝導転移温度を示すBa(Fe0.9Co0.1)2As2に着目しました。超音波を用いて弾性定数を測定した結果、驚くべきことに室温から超伝導転移点に向けて弾性定数C66 が減少を示す低温ソフト化を見出し、Ba(Fe0.9Co0.1)2As2におけるFe2+の3d電子軌道が、電気四極子をもつことを世界で初めて報告しました。これは、従来の銅酸化物超伝導体などで議論されてきたスピン揺らぎが寄与する超伝導に対し、電気四極子揺らぎによる新しい超伝導の登場を予感させるものです。超音波が有効な電気四極子揺らぎによる超伝導を理解するため、鉄系超伝導体に加え、A15型超伝導体やスピン三重項超伝導体Sr2RuO4、FFLO超伝導相が期待されるCeTIn5型超伝導体などの研究を進めています。

Rare earth compounds

レアアース(希土類)は,現代の先端産業において欠かせない元素群です。例えば,鉄に少し混ぜるだけで磁力がアップする性質は,ハイブリッド自動車や超小型モーターなどに使われています。また,少量混ぜて光を放つ性質を利用して,映像ディスプレイやレーザーなどに使われています。このような特徴は,レアアースがもつ4f電子のスピンと軌道が鍵をにぎっています。この4f電子軌道は開殻であり,その外側を閉殻の5s,5p軌道が外堀のように取り囲んで,レアアース化合物の磁性を安定化させています。4f電子の量子数は,スピンと軌道が結合した全角運動量Jで表され,磁気双極子のみならず電気四極子や磁気八極子など多様なモーメントをもつ量子状態が研究の舞台となります。超音波により結晶の中に誘起される微小な歪みの波は,電気四極子と双一次結合するので,超音波で計測される弾性定数の温度や磁場に対する振舞いを解析することで,レアアース化合物の磁性を支配する量子状態を調べることができます。電気四極子が存在すると,弾性定数は低温にするほど減少するソフト化を示します。ソフト化は結晶場準位にもとづいた四極子感受率による解析が有効となります。また,磁気双極子と同様に電気四極子も低温で秩序化します。隣どうしで、電気的な符号がそろって秩序化するものを強四極子秩序,交代的に秩序化するものを反強四極子秩序とよび,多くの物質群で新しい発見が相次いでいます。最近では,カゴ状レアアース化合物における原子の巨大な非調和振動であるラットリングの発見や4f電子と原子核磁性の結合状態の発見など,超音波による基礎研究の宝庫となっています。