Ce化合物の電子構造とフェルミ面

新潟大自然、東北大院理A、新潟大理B       眞榮平孝裕、樋口雅彦A、長谷川彰B

 希土類(原子番号57のLaから始まる15の元素)化合物の中には「強相関伝導系」と呼ばれる物質群があり、重い電子系、価数揺動系、複雑な磁気秩序、異方的超伝導など、とても特異で多彩な物性を示します。そのため研究者の興味も高く、世界的にも盛んに研究されています。そのような異常物性の起源が、4f電子を中心とした強い電子間相互作用によることは明らかです。そこで、起源解明においてもっとも基本となる物質、Ce化合物についての研究が、早急かつ重要な課題となります。そしてその解明には、バンド理論の果たす基礎的役割が大きく期待されます。
 さて、金属の最も重要な特徴の一つにフェルミ面と呼ばれるものがあります。簡単に説明すると、N個の電子を考えたとき量子論での基底状態(極低温)においては、パウリ原理(2個の電子が、すべての量子数について同じ状態を取ることが出来ない)に従い、エネルギー状態の低いところから、順々に詰まっていきます。そして、N個すべて詰まったときの最高のエネルギー準位をフェルミエネルギー、波数空間において電子の占めている空間と、占めていない空間との境界面をフェルミ面と呼びます。フェルミ面は、結晶構造と電子密度の違いに従って、それぞれ独特なフェルミ面をもっています。結晶格子と何ら相互作用しない自由電子では、球形のフェルミ面になりますが、実際の物質においては、伝導電子と結晶格子との相互作用が弱い単純金属(主なものにアルカリ金属)以外は、大変特異な形状を取ります。よって、フェルミ面とは、金属の最も重要な特徴であり、金属の特性である電気や熱などの高い伝導度、金属的光沢(光の反射)等に見られる金属の輸送的性質や光学的性質は、フェルミ面の形状や大きさに支配されています。従って、フェルミ面を決定することは金属の電子物性を理解する上で極めて重要なことになります。
 さて、これらの化合物の電子状態(フェルミ面)を調べるための強力な実験手段の1つとして、de Haas-van Alphen(dHvA)効果の測定があります。dHvA効果とは、磁化の強さが磁場の強さの逆数として振動的に変化する現象です。実験は、極低温、強磁場中において行われ、観測される振動数はフェルミ面を磁場に垂直な平面で切った断面積の極値(極値断面積)と比例関係にあります。詳細については、当日説明したいと思います。
 ここでバンド理論との対応ですが、これまでの研究結果により、dHvA効果の実験結果は、電子間相互作用に強く依存するサイクロトロン有効質量の大きさを別にすれば、バンド理論の枠内で合理的にうまく説明されることが明らかにされています。つまり、フェルミ面の形状に関して、バンド理論が十分有効であることを意味しています。
 そこで今回の発表では、いくつかのCe化合物の電子構造と、フェルミ面における極値断面積の詳細な解析結果を発表します。また、その結果からdHvA効果による実験結果の説明を行います。以下に今回発表する物質名と、内容を示します。
(1)α-Ceの電子構造とフェルミ面。
 Ceは温度と圧力の状態により、反強磁性、超伝導など様々な物性を示し、その相図は少なくとも5相の存在が知られています[1]。電子比熱係数(電子の有効質量に比例する量で、アルカリ金属の電子比熱係数より極端に大きいと重い電子系と呼ばれます)は12.8mJ/K2mol[2]であり、価数揺動系に属します。バンド計算により導いたフェルミ面と、今後行われるdHvA効果の実験に対する示唆を報告します。
(2)CeSn3の電子構造とフェルミ面。
 この物質は価数揺動系に属し、磁気秩序はありません。低温における電子比熱係数は53mJ/K2molであり、アルカリ金属の約25倍もあります。その電子構造とフェルミ面、またdHvA効果の起源の説明を行います。
(3)CeCo2、CeRh2、CeRu2のフェルミ面。
 これらの物質は、すべてCeラーベス相構造をとります。低温での電子比熱係数はそれぞれ、35mJ/K2mol、20mJ/K2mol、30mJ/K2molとなり、価数揺動系に属します。これらの物質のフェルミ面について報告します。
 ここで、エネルギーバンド構造の計算は、相対論的線形化Augmented Plane Wave(APW)法[3,4]、遍歴電子モデル、局所密度近似(LDA)に基づく交換・相関ポテンシャル、マフィンティン近似に基づいて定量的に行われています。また、ポリゴンを用いた画像処理法に基づいて新しい視覚化技術を開発し、フェルミ面を立体的にわかりやすく描きました[5]。

[1] K. A. Gschneidner Jr. And L. Eyring: in Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earths, Vol. 1, eds D. C. Koskenmaki and K. A. Gschneidner Jr. (North-Holland, Amsterdam, 1978) Chapt. 4, p.341.
[2] Chapt. 5, p. 389. In ref. [1].
[3] M. Higuchi and A. Hasegawa: J. Phys. Soc. Jpn. 64 (1995) 830.
[4] T. Takeda: J. Phys. F: Metal Phys. 9 (1979) 661.
[5] T. Maehira, M. Higuchi and A. Hasegawa: to be published in J. Magn. & Magn. Mater. 140-144 (1998).