造血制御に関する研究

造血幹細胞の自己複製の制御機構の解明


 ヒトを含めた哺乳類の血液中の血液細胞は全て造血幹細胞が増殖・分化して生み出されたものです。正常な骨髄には,複数種類の造血支持細胞から構成される造血微小環境が存在します(Nicheという呼び方をする場合もあります)。「造血幹細胞」はこの造血微小環境に存在し,動物個体の生涯にわたり「全ての血液細胞」を産生すると同時に,自己複製により全く同質の「造血幹細胞」を作り続けます。造血幹細胞から,各種の血液細胞を分化誘導するためには,それぞれの分化細胞に特異的なサイトカインや増殖因子が働きます。これまでにこれらを誘導する多くのサイトカインや増殖因子が見つかり,その働きが解明されてきました。これらの中には,既に医療現場で用いられているものもあります。造血幹細胞は多分化能を持ち,全ての血液細胞に分化出来る能力を持ちますが,ひとたび特定のサイトカイン等の誘導因子により分化方向が決定してしまうと,これらの細胞は前駆細胞となり別系列の細胞に分化出来る能力を失います。
 造血幹細胞は骨髄中の全有核細胞のうちのごく僅かな割合でしか存在しませんが,自己と同じ細胞をつくり出す能力があります。このメカニズムに関しては,国内外で精力的に研究が進められていますが,まだ完全解明には至っていません。何が,どのように造血幹細胞の自己複製を制御するのか,そのメカニズムを分子レベルから解明するのがこの研究の中心テーマです。我々の研究室で維持しているMS-5という細胞株は,長期骨髄培養から樹立された造血支持細胞株です。このMS-5の上に造血幹細胞をまいて共培養を行うと,一定期間,造血幹細胞の幹細胞性を維持したまま維持することが出来ます。(造血幹細胞だけで培養をすると,やがて幹細胞性は失われてしまいます)。このことから,この造血支持細胞は造血幹細胞を維持する仕組みを持っていると考えて研究を進めています。

FACSを使った造血幹細胞のソーティング


 造血幹細胞を扱う実験では,骨髄細胞から造血幹細胞を純化する事が必要になります。全骨髄中の僅かな割合しか存在しない造血幹細胞を純化するにはFACS(FACS)を使います。この為には,マウスの骨髄細胞を分化した血液細胞に特異的な細胞表面抗原,および造血幹細胞に特異的な細胞表面抗原(c-Kit, Sca-1)に対する蛍光抗体のカクテルで染色して,FACSで分離します。分化細胞(T細胞, B細胞, 顆粒球, マクロファージ,赤血球系細胞)特異的抗原陰性で,かつ生細胞( 7-AAD陰性)を,抗c-Kit 抗体(PE標識)と抗Sca-1抗体(FITC標識)で2重染色して,c-kit(+)/Sca-1(+)-両陽性細胞(KSL細胞)を分画すると,これがほぼ造血幹細胞となります。実際にこの細胞を致死量放射線照射したマウスに骨髄移植すると,骨髄の再構築がおこります。この様にして得られた造血幹細胞分画は,始めに処理した骨髄細胞の僅か0.02%程度です。このKSL細胞を実験に使用し,その増殖や遺伝子発現を解析する事になります。

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