アサガオの生理学
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花成生理学序論
フロリゲン説の代案
多要因説

 近年、フロリゲンと呼ぶべき特殊な物質は無く、既知の植物ホルモンや同化産物を含む多数の要因が整ったときに花芽がつくられるとする多要因説が支持を集めている。
 カラシでは、サイトカイニン、プトレシン、ショ糖、Ca++は、いずれも、花成誘導条件下の葉で増加し、頂芽へ移動する。これらの全てが揃ったときに花成が起こるという考えが多要因説である。最終的な複合物がそろった時点で同時に機能するというより、複数の要因が順次にそれぞれに機能して行くと考える。種によって異なる物質群が多要因として機能する。カルスのシュート形成、根形成は、それぞれを誘導する特別な物質があるわけではなく、オーキシン濃度とサイトカイニン濃度のバランスで決まる。同じように、花成も特別な物質ではなく、既知の物質のバランスで決まる可能性は考えうる。多要因説は、ショ糖やサイトカイニンを細胞周期を短縮する要因と考え、プトレシンとCa++には細胞分裂におけるサイトカイニンの共同要因やセカンドメッセンジャとしての役割をあげている。

阻害物質説

 花成に適当な日長条件下におかれると、もともと存在する阻害物質が消失し、阻害物質の作用から解放されることにより花成が起こると考えるのが阻害物質説である。長日植物であるヒヨスはすべての葉を除去されれば短日条件下でも花をつける。中性植物をヒヨスやNicotiana sylvestrisに接木して短日条件下におくと、中性植物の花成は阻害される。これらは、阻害物質の存在を仮定しなくては説明できない。しかし、フロリゲン同様、阻害物質の存在も証明されてはいない。
 短日植物のシソで、2本の枝の1本を長日条件におき、他の1本を短日条件におくと、長日条件におかれた枝は葉を除去されているときに限って花成を誘導される。これは、不適切な日長条件下で花成阻害物質が作られることを示している。しかし、フロリゲンは長日条件下の葉から出る光合成産物の流れに逆らって移動することはできないと仮定すれば、阻害物質を仮定しなくても説明できる。

物質を想定しない信号伝達説

 傷害を受けたトマトは速やかにプロテアーゼインヒビタを生産する防御反応を示すが、この反応は傷害をうけた部位だけでなく、全身で起こる、極めて早い反応である。この傷害を受けた部位から全身への信号伝達物質としてサリチル酸、ジャスモネート、システミンなどが想定されているが、化学物質の移動では時間がかかりすぎるので、もっと早い信号伝達機構があるものと思われた。それが電気信号である。電気刺激を与えたときに、傷害なしにプロテアーゼインヒビタ遺伝子発現が誘導されるたことから、電気信号が遺伝子発現誘導要因であると結論されている。このように、電気信号が情報伝達機構として機能するので、電気信号を花成刺激として想定する電気信号説がある。
 花成との関連において電位変化を測定した報告がいくつかあるが、明確な結果を得ることができず、電気的な花成刺激のアイデアには否定的な結果が多い。傷害に対する全身反応で機能する電気信号に関する実験結果を花成生理学の知見と比較してみると、電気信号は植物体全身に分単位で伝達され、どの組織もが伝達経路となるのに対して、花成刺激は数時間をかけて伝達され、篩管を通ることから、電気信号の性質は花成刺激の性質とは一致しない。


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