アサガオの生理学
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アサガオのつるの巻き方
アサガオのつるは左回り

 アサガオの茎はつるになって他のものに巻きついて伸びてゆく。アサガオのつるの巻き方を植物学者は習慣的に左巻きと呼ぶ。
 普通のネジは右に回すと進むから右ネジと呼ぶ。右ネジのらせんの巻き方を右巻きということになっている。右ネジのらせんの巻き方はアサガオのつるの巻き方と同じである。巻貝では殻頂を上に向けたとき、殻の右側に殻口があるのを習慣的に右巻きという。右巻きの貝の巻き方もアサガオのつるの巻き方と同じである。一方、北半球の台風や竜巻の中心へ向かって吹き込む風が作る渦巻きは左巻きということになっている。ところが、台風や竜巻の渦はアサガオのつるの巻き方と同じである。左巻きか、右巻きかはなかなか難しい問題である。
 らせんの左巻き、右巻きは定義の仕方でいかようにもなる。時計回りの巻き方を右巻きと呼ぶことが多いが、上から見おろしたときと下から見あげたときでは逆になる。上から見ることにしても、つるを上からたどってゆくか、下からたどってゆくかで逆になる。アサガオのつるは、上から見て、上からたどれば時計回り、下からたどれば反時計回り。下から見て、上からたどれば反時計回り、下からたどれば時計回りで、どうにでもなる。
 アサガオ自身の立場に立って見てみると、アサガオのつるの先端は左へ左へと回り込みながら成長してゆく。アサガオにとっては極めて明快で、左へ回り込むとしか言いようがない。左へ回り込んだ結果の巻き方は左巻きというのが自然だろう。アサガオのつるは左巻きなのである。もし、ねじや巻貝の巻き方との整合性を求めるならば、混乱は避けられず、議論はつきない。もはや、植物では「左巻き、右巻き」という言い方をやめて、つる自身が成長してゆく方向を「左回り、右回り」と呼べば誤解は生じない。植物学では、いかに形が形づくられてゆくかの過程を知ることが大事なので、成長方向に注目した方がよい。
 アサガオと同じヒルガオ科に属すマルバアサガオ、ヒルガオ、ネナシカズラ、マメダオシはどれも、アサガオと同じく、左回りにつるを巻いてゆく。マメ科の植物では両方の巻き方があって、ヤマフジ、クズ、インゲンマメはアサガオと同じ左回りなのに対し、フジ、ナツフジは右回りである。ヤマノイモ、ヘチマ、カラスウリは同じ種の中でも左または右の回り方をする個体がある。

回旋運動

 アサガオの茎の先端は常に首振り運動をしている。首振りの方向は一定で、左回りである。こうして周囲を探って、何かにあたれば、それに巻きついてゆく。このような首振り運動を回旋運動といい、アサガオだけでなく、つる性でない植物を含めた多くの植物が行っている。
 こうして支柱が見つかれば、アサガオはそれに巻きつく。接触刺激が茎(つる)が曲がる誘因になっているようだ。しかし、つるが他物に接触した時になぜ曲がるのかというしくみについては不明の点が多い。
 支柱になるものがないと、アサガオは地表を這って、まっすぐ伸びてゆく。ほんの小さな草や、ちょっとした土くれにでもぶつかると、それを機に左へ曲がる。しかし、アサガオのつるを水平の台の上を這わせて、曲がるきっかっけを与えないと、つるの先端近くが枯死して、主茎の伸長は停止してしまう(図G321)。すると、前の2-1で述べた頂芽優勢が打破される結果となり、根本近くの側芽が成長を始めて、新しいつるが伸び始める。


図G321.水平の台の上を這わせたアサガオ。つるの先端近くが枯死し、根本近くの側芽が成長を始めている。

 回旋運動ができないときはどうなるだろう。茎を伸張し始めたばかりの若いアサガオの芽生えを直径4cmほどのガラス管の中に入れて育ててみる(図G322)。アサガオの回旋運動の半径は10cm程度なので、このガラス管の中では回旋運動はできない。回旋運動ができないと、つるを巻かずに、まっすぐ上に伸びて行く(図G323)。周囲から支えられているから、巻きつくものが無くても、倒れることなく、伸びることはできる。しかし、途中で成長がとまってしまう。つるを巻きつけないと具合が悪いようだ。


図G322.支柱があるとき(左)と支柱が無いとき(右)のアサガオの成長。支柱が無い場合は、倒れないように、ガラス筒内で外から支えるようにする。


図G323.アサガオは支柱に巻きついて伸長してゆく(左)。支柱が無ければつるを巻かないが、ガラス筒内で支えられていればまっすぐ伸長する(右)。だが、ガラス筒内で正常な成長は長続きしない。

 アサガオのつるは壁は登れない。どれくらいの太さの支柱なら巻きつけるだろうか。紙を丸めて、直径4cm、6cm、8cmの円筒を作り、茎を伸長し始めたばかりの若いアサガオの芽生えのかたわらに立て、巻きつくかどうかを観察してみた(図G324)。4cmなら巻きつくが、6cm以上では巻きつけなかった。どの太さでも、つるを巻き始めはするが、6cm以上では自分を支えきれずに、ずり落ちてしまう(図G325)。円筒の表面がひっかかりやすい構造ならば、この結果は違うものになるかもしれない。逆に、細い糸には巻きつくことができる。この実験で同時に試してみた絹糸には、 もっともしっかりしたつるを巻いた。


図G324.アサガオのつるが巻きつける支柱の太さはどれくらいか?右から、絹糸、直径4cm、6cm、8cmの円筒。


図G325.アサガオのつるが巻きつける支柱の最大直径は4cm(右から2番目)。絹糸にも巻きつける(1番右)。

つるの巻きつきと頂芽優勢

 支柱が短すぎて先端まで上りきってしまったり、風に吹かれてつるが支柱から外れてしまったとき、自分を支えるものを失ったアサガオはどうするだろうか。実験的につるを支柱から外して、垂れ下げてやると(図G331)、支柱に巻きついている部分から側枝を伸ばして、新しい方向に伸び始める(図G332)。頂芽優勢が打破されて、かつての頂芽は成長を止め、代わりに側芽が成長を始めるのである。


図G331:支柱を失ったアサガオ。


図G332:支柱を失ったアサガオは支柱に巻きついた部分からから側枝を伸ばす。

参考図書

ダーウィン著 渡辺仁訳 (1991) よじのぼり植物 −その運動と習性− 森北出版
ダーウイン著 渡邊仁訳 (1987) 植物の運動力 森北出版
木原均 (1977) 左右性 木原均監修・山口彦之編 植物遺伝学 IV. 形態形成と突然変異 pp.54-79


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