花のしおれには植物ホルモンの一種であるエチレンが関与している。エチレンは果実の成熟など、植物組織の老化を促進する働きがある。花がしおれるのは、花弁の細胞がエチレンを作るからである。ノルボルナジエンはエチレン生合成阻害剤を阻害する。また、銀イオンはエチレン作用を阻害する。従って、切り花を挿した水にノルボルナジエンを加えたり、硝酸銀溶液を花に散布することで、花のしおれを抑制することができる。 開花したばかりのアサガオを水に挿しておくと、6〜8 時間後にしおれ始め、しおれに先立ってエチレンの発生が検出された。水にノルボルナジエンを加えておくと、開花してから 20 時間以上しおれない状態のままで、このときエチレン発生量は低下していた。
花のしおれにともなって、花の色が変化するのが観察されることがある。青色系のアサガオでは、しおれると赤くなるので、よく目立つ。 アサガオの花の色素はアントシアニンである。アントシアニンは分子構造は同じでも、溶液のpHによって色合いが変わる。リトマス試験紙と同様、酸性で赤く、アルカリ性で青くなる。アサガオの花では、アントシアニンは表皮細胞の液胞に存在するので、液胞のpHが変化すれば色も変わる。アサガオでは細胞内のpHが時間とともに大きく変化するので、それにともなう色の変化が観察される。ヘブンリーブルーは蕾のときは赤紫だが、開花すると鮮やかな青色になり、しおれると再び赤くなる。このとき、花弁細胞の液胞のpHが測定された。赤紫の蕾のときのpHは6.6、開花した蕾では7.7であった。しおれると、再びpHは酸性側に傾いた。 花がしおれなくても、花の色が時間とともに変化する場合もある。午後遅くまで開いているアサガオがあるが、この花は朝は青いが、午後には赤くなる(図F321)。細胞の中では、液胞で同じpH変化が進んでいるはずである。 図F321.アサガオ、柳系統の花の色の変化。朝には青色をしているが(上)、午後にはピンクに変化する(下)。