アサガオの生理学
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アサガオ花成生理学実験法
アサガオの育て方と花成誘導の方法

 野外でアサガオを育てると、生育に適した季節では、種子を播いてから7週間から9週間ほどで花が咲く。開花までの時間は、品種、播種時期、栽培する地方、気候などにより大きく変動する。従って、生理学的な実験で、再現性のあるデータを求めるときには、温度と光条件を一定にした培養室で育てる必要がある。栄養条件を一定にし、薬剤処理の効果を調べるためには、人工的な培養液を用いた水耕が適当である。また、開花まで待って花成反応を判定するのでは時間がかかりすぎるし、開花は狭義の花成とは別の現象でもあるので、花芽の形成の有無を判定して実験を打ち切るのが普通である。
 以下に、実験室内でアサガオを育て、暗処理によって花成を誘導し、形成された花芽を葉芽から識別する方法を紹介する。

1.播種

 アサガオの種子は水・酸素を透過しにくい硬い種皮に覆われているため、発芽しにくい。そのため、発芽を早め、発芽時期をそろえるために、種皮の一部をナイフなどで削る「芽切り」という処置が一般的に行われる。しかし、一度の実験で数百粒の種子を扱うことの普通な生理学的実験では、このような芽切りは時間がかかり、現実的でない。そこで、種皮を濃硫酸で処理する方法をとる。

硫酸処理

 アサガオ種子をビーカに入れる。種子がひたる程度に濃硫酸を加え、50分間浸漬する。適切な浸漬時間は品種によって、また、同一品種でも採種時の条件、採種後の保存時間によって異なる。小さい種子は40分間程度、古い種子は1時間程度とする。時々ガラス棒で撹拌する。  種子を濃硫酸ごとブフナ漏斗にあけ、流水で洗う。水道水を流しておいて、ブフナ漏斗を差し出し、一気に水をかける。濃硫酸に水を入れると急激な発熱が起こって危険なため、常識的にはしてはならないのだが、ここでは、あえて常識に反することをするので、一気に水をかけるのがコツである。水をかけると一瞬発熱するが、種子に影響はない。濃硫酸が飛び散らないよう十分注意する。さらに数分間流水で洗う。
 洗った種子をビーカに戻し、口をガーゼで覆い、水道水で1時間流水洗する。種子を大型シャーレに入れた水道水に移し、25℃で一晩吸水させる。このときは光条件にこだわらない。
置床

 ペトリ皿に濾紙を敷き、濾紙を蒸留水で湿らせる。吸水して膨らんだ種子を選んで、ピンセットを使って、胚のある部分(臍)が上になるように濾紙の上に並べる。並べ終わったら、種子の下半分が水面下に隠れる程度に蒸留水を加える。25℃、長日条件(16時間明期−8時間暗期)下に一日おき、発芽させる。
寒天培地への播種


 0.6%寒天培地を作る。蒸留水を寒天で固化すればよく、栄養塩類・糖などを加える必要はない。電子レンジで溶かした寒天をプラスティック容器(300 mm x 250 mm x 100 mm高程度の大きさのものが使いやすい)に入れ、寒天を固まらせる。寒天培地の量は容器に入れたときに15〜20 mmの深さになる程度とする。上記のサイズの容器ならば1リットルの寒天培地を用意すればよい。大型ビーカに1リットルの蒸留水を入れ、寒天を加えて、500ワットの電子レンジならば10数分間加熱する。寒天に濃度むらが生じないよう、よく攪拌してからプラスティック容器に入れ、室温に放置する。
 発芽した種子の中から幼根の長さが10 mm程度に伸長したものを選び、ピンセットを使って、胚のある部分が上になるように種子を立て、種子の半分が寒天の表面下に埋まる程度の深さに植える。あらかじめピンセットを寒天培地に突き刺し、その割れ目に幼根を差し込むようにして種子を植える。
 植える種子の密度は、発芽後に子葉が重なり合わない程度とする。上記のサイズの容器ならば80個体程度が適当である。容器の下に升目を書いた紙を敷いておくと、均一に植えることが出来る。種皮が乾燥すると子葉が展開できないので、容器内を多湿に保つためにラップフィルムで覆う。25℃、長日条件の培養室で5日間育てる。
 寒天培地への播種後2〜3日目に子葉が展開するので、ラップフィルムの隅を少し開けて内部の湿度を下げる。ラップフィルムを一気に外すと、湿度の急激な低下によって芽生えが萎凋するので、少しずつ隙間を広げて、馴化を図る。子葉表面が乾いたらラップフィルムを取り除く。子葉から種皮が落ちていない芽生えがあれば、洗瓶を使って少量の蒸留水を種皮にかけて湿らせ、数分後に柔らかくなってから、子葉を傷つけないよう注意しながら取り除く。
2.暗処理
水耕
 ガラス培養管(18 mmφ x 150 mm程度の大きさのものが使いやすい)を試験管ラックに用意し、アサガオ培養液(アサガオ培養液の組成)を入れる。寒天培地で育てた芽生えの中から生育の揃ったものを選び、培養管1本に1個体を移植する。
暗処理
 培養管に移植した芽生えを暗処理用インキュベータ(25℃、8時間明期−16時間暗期)へ移し、1回の暗処理を行う。暗処理開始時間は、それまでの長日条件における暗期が始まる時間にあわせる。例えば、長日条件における暗期が毎日22時から翌朝6時までならば、暗処理は22時から翌日14時までの16時間とする。
 暗処理後、インキュベータから長日条件の培養室へ戻し、1〜2週間培養する。培養期間中に培養液が減少するので、適宜補充する。
 暗処理で形成を誘導された花芽は、暗処理1週間後には葉芽との識別が可能な程度まで発達するが、慣れないうちは、暗処理後2週間培養して、花芽が十分発達してから観察する方が無難である。
3.観察

 芽生えのすべての芽を顕微鏡下で解剖して、花芽か葉芽かを識別し(花芽の判定と花成反応の評価)、花成反応を調べる。


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