概要

沿革

臨海実験所は、1953年に新潟大学理学部附属臨海実験所として設置が許可されました。翌1954年、佐渡郡金泉村(その後、相川町に合併、さらに2004年佐渡市に合併)の援助により、外海府海岸の一画、達者湾の端に土地と建物の寄付を受けて臨海実験所が発足しました。日本海側で最初の、そして新制大学としても最初の臨海実験所です。発足当時は木造二階建ての建物でしたが、1985年に現在の鉄筋コンクリート二階建ての建物に改築されました。発足当時の教官定員は助教授1名、事務職員1名でしたが、1967年に助手1名が増員となり、1968年に助教授定員の振替により教授の職が認められ、教授1名、助手1名となりました。その後、テニュア・トラック准教授1名、高度化推進助教1名のポストが認められるなど定員が拡充され、2019年4月現在、教授1名、准教授1名、助教1名、特任助教1名の教員体制となっています。事務系職員は、1957年と1964年にそれぞれ1名ずつ増員されて3名に増えましたが、その後の定員削減などにより、現在は技術専門職員1名と技能補佐員1名(夏季の繁忙期のみ2名)となっています。

臨海実験所は、発足から65年にわたり理学部附属施設として教育と研究に貢献してきましたが、2019年4月より、佐渡島にある新潟大学の2つのフィールド教育・研究施設(朱鷺・自然再生学研究センター、農学部附属フィールド科学教育研究センター佐渡ステーション)と統合し、佐渡島の森里海の生態系を科学する総合的な教育・研究センターとして、佐渡自然共生科学センター海洋領域/臨海実験所となりました。

1979年の佐渡臨海

1979年当時の木造二階建ての実験所。実験所前の岩場にはコンクリートで作られた海水プールがありました。

1985年の佐渡臨海

1985年に改築された実験所。艇庫も整備されました。

2013年の佐渡臨海

2013年の実験所。大きな堤防が整備されたため、北西の風が吹き付ける冬でも漁港内は比較的穏やかです。

理念と目標

海洋は生命進化のゆりかごであり、生物の系統進化は海洋生物の歴史であるといえます。海洋生物の多様性とその成り立ち、さらに生物の普遍性の解明と理解は、生物学の教育・研究の基盤となるものであり、臨海実験所の設立理念です。また、海洋生物の持つ多様性は、基礎生物学だけでなく、医学や薬学、水産学、工学、環境学など幅広い分野の発展に寄与しているだけでなく、その多様な生物機能はさまざまな産業や生物資源の持続的生産などに応用されています。

臨海実験所のある佐渡島は、日本海の中央部東側に位置する離島であり、日本海沿岸域の海洋環境や生物相を理解する上で最適の教育・研究の場を提供しています。臨海実験所は、設置当初より、日本海の特性を背景に佐渡沿岸域に生息する海洋生物の多様性と特性を明らかにすると共に、フィールドワークを通した実践的海洋生物学教育を行うというミッションの基に、佐渡島に残されている豊かな自然環境と生物相を活用して高度な教育・研究を行ってきました。2019年度からは、佐渡自然共生科学センター海洋領域/臨海実験所として、佐渡島の2つのフィールド教育・研究施設(森林領域/演習林、里山領域/朱鷺・自然再生学研究施設)と連携して、生物多様性の基盤となる森里海生態系の構造と機能を総合的に理解する教育・研究を展開し、生物多様性や環境についての高度な知識と見識をもった人材を育成します。

また、臨海実験所は2013年に文部科学省教育関係共同利用拠点に認定され、全国臨海臨湖実験所長会議を中心とした全国の大学や海外の大学との連携を基にして、海洋生物多様性と生態系の機能の理解のための教育共同利用を展開してきました。2018年には第二期の共同利用拠点「佐渡島生態系における海洋生物多様性・適応生理生態学教育共同利用拠点」として認定され、国内外の大学とのネットワークを強化して、より多彩でグローバルなフィールド教育プログラムを提供し、基礎生物学教育の多様化と高度化を実現していきます。

環境:海洋生物の楽園、佐渡の海

佐渡島沿岸域は、黒潮の支流である対馬暖流に洗われているため、佐渡島沿岸域の生物相は本州の太平洋岸黒潮域と似通っています。しかし、日本海は内海的な性格が強く、潮汐差も佐渡島沿岸域で最大30cmと小さいため、潮間帯や干潟が発達しないといった特徴があります。また、表層を流れる対馬暖流の下には、日本海固有水と呼ばれる冷水塊が広がっているのも日本海の特徴の一つです。冬季は北西の季節風をまともに受けるため、海上は 連日時化となり、凪の日はほとんどありません。しかし、冬季の北西の季節風によって海水は冷やされ、暖海性魚類だけでなく、サケやタラなどの寒帯や亜寒帯に生息する魚類の侵入も可能にしています。また、冬季の季節風は、春季の植物プランクトンの大量発生をもたらし、日本海が豊かな漁場として栄えている大きな要因となっています。

日本近海における海流の分布

日本近海における海流の分布。佐渡島の沿岸域は対馬暖流に洗われています。

夏季の日本海の水系模式図

夏季の日本海の水系模式図。本間1992「新潟県 海の魚類図鑑」新潟日報事業社より作成。日本海は底の深い(最深部は日本海盆北東部の3685 m)たらいのような構造をしています。

佐渡島の多様な海岸環境

四方を海に囲まれた佐渡島の海岸は、場所によって受ける波や風当たりが大きく異なるため、様々な海岸環境が見られます。冬季の北西季節風の猛威にさらされる外海府の岩礁海岸(1. 尖閣湾)、波穏やかな真野湾の砂浜海岸(2. 沢根)、小木半島の隆起海岸(3. 沢崎)、転石の多い大佐渡内海府海岸(4. 鷲崎付近)、淡水と海水の混じる汽水湖(5. 加茂湖)。