教員の受賞・表彰

高橋 正道 教授(自然環境科学科) ― 日本植物分類学会賞

2009年3月

受賞者:高橋 正道 教授
賞の発行:日本植物分類学会
賞の名称:日本植物分類学会賞
賞の位置づけ:日本を代表する植物分類・多様性に関する日本植物分類学会学会が、植物分類・多様性に関する優れた研究業績を挙げ、この学問分野に多大の貢献をした研究者に贈る賞
受賞の名称:白亜紀の被子植物の小型化石に関する研究および花粉形態学的研究
受賞日時:2009年3月

 日本植物分類学会第8回全国大会(平成21年3月13日~15日:仙台)にて,本学自然科学系(理学部)の高橋正道教授が『日本植物分類学会賞』を受賞しました。高橋教授のこれまでの「白亜紀の被子植物の小型化石に関する研究および花粉形態学的研究」に関して顕著な研究成果をあげてきたことが学会賞の受賞理由です。

 高橋教授は白亜紀の地層から柔らかい堆積層を発見し,その岩石を溶解させて小型植物化石を洗い出すという新しい方法で,被子植物の起源や初期進化に関する研究を行ってきました。この研究法は,高橋教授の共同研究者であるスウェーデン自然史博物館のFriis博士やシカゴ大学のCrane教授らによって,欧米を中心に行われてきましたが,高橋教授はアジアで初めて,白亜紀の地層から被子植物の花化石を発見するなどの研究成果をあげてきました。

 これらの研究成果は,著書である「被子植物の起源と初期進化」(北大出版)にまとめられています。最近では,兵庫県にある大型加速器SPring-8によるマイクロCTイメージングという方法で,白亜紀から発見された花化石を非破壊的に内部を明らかにする研究をすすめるとともに,タイやモンゴルの白亜紀の地層から「地上最初の花」を探す研究を進めています。

大型加速器SPring-8と白亜紀の花化石のよもやま話

高橋 正道 教授

 白亜紀の1億年以上も前の地層から発見される花化石は、驚くほど内部の3次元的な構造が保存されている。ところが、その内部の構造を明らかにするためには、連続切片法か、凍結割断で、花化石を破壊しなければならなかった。白亜紀の花化石は炭化しているので、花化石の連続切片法は、現生植物でのようにはうまくいかない。花化石を破壊しないで、内部構造を解明できるのは、X線マイクロCTである。市販されている一般的なX線マイクロCT装置もあるので、いろいろと試してみたが、結局のところ、炭素が主成分の花化石を高コントラスト・高分解能で3次構造を解明するために、大型加速器SPring-8のビームラインを使うことになった。大型加速器と言えば、昨年のノーベル物理学賞で有名になった素粒子の研究に使われる巨大科学であって、物理が苦手な私とは全く無縁な話であると考えていた。どのようにして、この大型加速器SPring-8を使うようになったかの経緯を詳しく説明するだけの紙面もないので省かせていただくが、昨年の4月以来、兵庫県にある大型加速器SPring-8で、花化石の高解像度イメージングの研究プロジェクトを進めている。

 SPring-8は、第三世代の大型放射光施設とよばれ、加速された高エネルギービームから発生する放射光を利用して実験・研究する世界最大級の施設である。1997年に完成し、周囲1436mのリングの周囲には62本のビームラインがあり、素粒子科学、材料物性、タンパク質の立体構造解明など、多くの研究分野に活用されている。その巨大科学のSPring-8の前で、物理学というものの深淵さに身が震えるような気がした。

 私は、SPring-8の中で、花化石を直径3mmのアクリルの先端に付けて、ハッチ内にセットして、少しずつ回転させながら、1個あたりの化石で約2時間かけて1800枚のX線透過像を撮影した。この間、モニターを監視し続けることになる。ビームは1日中連続して流れているので、次々と化石を交換しては、CT撮影が続けられる。当然、寝こんでしまうことなどは許されるものではない。これらの1800枚の透過像から1000枚のCT像を構築していく。さらに、これらの連続したCT像を積み重ねることによって3次元的に構築していくのである。

 被子植物の起源地として古くから注目されているのが東南アジアである。これまで、東南アジアが小型植物化石の研究対象となることはなかった。長年、タイの白亜紀の地層を研究してきた久田先生(筑波大学、地質学)の協力で、この3月に被子植物の起源群を探る研究をするために、1本のツルハシをもって、タイにでかけることにしている。東南アジアで得られた白亜紀の堆積岩から、大型加速器SPring-8で、「地上最初の花」を明らかにしたいと考えている。

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