研究紹介

大井研究室

教員

研究分野

関数解析学,Banach環上の保存問題

研究テーマ

  1. 関数解析学における保存問題
  2. Banach環上の等距離写像

研究概要

 関数解析学を用いた保存問題を研究しています。二つの空間の間の写像に,何らかの構造や性質を保存するという条件を仮定したとき,その写像が他にどのような構造や性質を保存するかを問う問題です。保存問題では,弱い条件を仮定して強い結果を導きます。

 実数全体$\mathbb{R}$で定義された実数値関数$f(x)=2x$は,$f(x+y)=f(x)+f(y)$を満たすので和の構造を保存します。例えば関数$g(x)=x^{2}$は和の構造を保存しないので,和の構造を保存する関数は限られることが分かります。一方,この逆を考えてみると,「和の構造を保存するならば,$f(x)=2x$」となりますが,これは成り立ちません。それでは,和の構造を保存する関数$f$はどのようなものなのでしょうか。これも保存問題の一種です。

 本研究室では,Banach環上の保存問題を考えます。Banach環とは,和と積と距離の構造が定義されている集合です。実数全体の集合$\mathbb{R}$もBanach環ですが,一般に数を要素とする集合である必要はありません。連続関数の集合,正則関数の集合,可測関数の集合,行列の集合,有界線形作用素の集合など様々な種類のBanach環があります。特に,二つのBanach環$A$と$B$に対して,その間の写像に距離構造を保存するという条件や,代数構造を保存するという条件を仮定したとき,$A$と$B$はBanach環として同型になるかどうかを研究しています。

 例えばAを閉区間$[0,1]$上の連続関数全体からなるBanach環とし,Bをコンパクトハウスドルフ空間$X$上の連続関数全体からなるBanach環とします。コンパクトハウスドルフ空間とよばれる対象はたくさん存在するので,$B$にはかなりの自由度があります。ところが,Banach-Stoneの定理(1932年,1937年)より,$A$と$B$が等距離同型であるならば,$A$と$B$はBanach環として同型であるということが分かります。つまり,$X$は$[0,1]$と同相であるということが導かれます。

理学を目指すあなたへ

 高校までの数学よりもずっと抽象的な概念が多く,理解するには時間が必要だと思います。一方で地道に続ければ,そこに広がる数学の奥深さと魅力を実感することができるはずです。